【アンサング・シンデレラ】にみる薬剤師の働き方

皆さん、アンサング・シンデレラをご覧になりましたか?テレビドラマ史上初の薬剤師を主人公とした医療・ヒューマンドラマが、先日、9月24日に最終回を迎えました。全11話のこのドラマは、新型コロナの影響で放映が延期されていましたが、多くの薬剤師さん達が注目していたのではないでしょうか。当初は、「こんな薬剤師いるわけない」というような批評もネットで見られたようですが、放映後のアンケートでは「今までより薬剤師を頼ってみようと思った」、「薬剤師に対する印象が良くなった」(スマスタ調べ)という意見も多く寄せられ、高評価を得られたようです。筆者も毎回視聴していましたが、その中でドラマの本筋とは別に、様々な「これからの薬剤師の働き方」に関係する事柄が取り上げられて興味深く感じていました。今回はそうした点をいくつか取り上げたいと思います。

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第1話より「疑義照会」について

初回は、主人公の葵みどり(石原さとみ)が、蜂に刺されて救急センターへ運び込まれた患者への医師の対応をサポートして、心肺停止から救うところから始まりました。心臓マッサージを交代する葵みどりに対して一般の方から「ありえない」という意見が寄せられたのもこの回だったと思います。ドラマにはしっかりした医療・薬剤監修がついていて、重労働である心臓マッサージを医師以外の人が交代することは「ありえない」ことではないのはご存じの通りです。

このドラマでは、毎回いくつかの病気や薬剤、その他の医療シーンが取り上げられていましたが、初回は前述の蜂に刺されたことによるアナフィラキシーショックのほか、1型糖尿病とHELLP症候群がテーマでした。筆者が気になったのは、最後のHELLP症候群でのみどりの医師への疑義照会です。詳細は省きますが、患者の声に耳を傾け、症状が薬の副作用とは違うと医師に進言しHELLP症候群にたどり着いたというストーリーでした。医師の処方に疑問を抱きすぐに疑義照会するみどりの行動は、薬剤師としては当たり前の事ではあります。しかし、疑義照会や処方提案に抵抗を感じる薬剤師が多いのも事実ではないでしょうか。葵みどりが目立つのは、そうしたことに躊躇なく、忖度もせず患者さん第一を貫くところだと思います。逆に言えば医師と話せる薬剤師が少ないとも言えるのかもしれません。対物から対人へという大きな流れの「人」には患者さんだけでなく、医師や看護師などチームとして医療を進めていくパートナーも含まれるのではないでしょうか。最近知ったのですが、「ファーマニケーション」という医師とのコミュニケーション術があるそうです。これからの薬剤師に求められる能力としてコミュニケーション力は非常に重要なスキルの一つではないかと感じた回でした。

第5話より「資格・専門性」について

第5話は、葵みどりが通う中華料理店「娘娘亭」の店主・辰川の父親・太一(伊武雅刀)へのがん告知と抗がん剤治療の話でした。みどりが指導する新人薬剤師・相原くるみ(西野七瀬)は、抗がん剤調剤室でがん薬物療法認定薬剤師の資格を持つ薬剤部主任の刈谷奈緒子(桜井ユキ)の仕事に興味を持ち、みどりと一緒に太一を看たいと申し出ます。この回の医療テーマは、抗がん剤、緩和ケア、アドバンス・ケア・プランニングの3つでした。

topic_04_b.jpg筆者がこの回の薬剤師の働き方で気になったのは専門性と資格取得です。薬剤師が薬の専門家であることは当たり前ですが、薬物医療の高度化に伴ってこれからはさらに高い専門性が求められる時代になっています。ドラマにあったがん治療も外来治療へのシフトなどで病院薬剤師の話だからということではなくなってきています。9月に施行された改正薬機法では、専門医療機関連携薬局の役割が示されています。ドラマでは、この回ではありませんが、ドラッグストア勤務の小野塚綾(成田凌)が救急認定薬剤師の資格を取得し、萬津総合病院へ転職して病に倒れた薬剤部副部長・瀬野章吾(田中圭)の後を継ぎ救急薬剤師となります。専門資格がないと転職が難しくなることもこれからは想定されるかもしれませんね。

第7話より「ロボット」について

この回のお話の中心は特別室に入った議員の古賀万奈美(渡辺真起子)と急性骨髄性白血病で入院している簑島心春(穂志もえか)のストーリーでしたが、筆者が気になったのは、なぜかロボットではなく「ロボッツ!」と叫ぶ薬剤部部長・販田聡子(真矢ミキ)でした。販田は、常に悩まされてきた薬剤師の人手不足解消のため調剤ロボの導入を皆に話します。それには高額な予算を院長と交渉して獲得しなければならず、葵みどりに予算獲得のため院内で波風を立てないように釘を刺すというところからお話は始まりました。

topic_04_c.jpgドラマでは調剤室のものすごい忙しさが常に演出されていました。新人が来て歓迎するのも拍手ではなく足踏み。通称ハク・羽倉龍之介(井之脇海)が素っ頓狂な声で「手を動かす!」というのも耳に残っています。加えて、なかなか補充人材は来ないという状況で、販田は解決策としてロボット導入を考えます。入院患者は別にして外来の院内処方をここまでやるのかなという疑問は持ちましたが、薬剤師でなくてもできることは別の人やAI・ロボットが代替するというのは、この分野に限らずこれからどんどん進んでいくことでしょう。調剤薬局でもロボット導入の店舗ができたり、オンライン診療に伴うICT化が進んだりするなど変化が加速してきています。別のコラムでも書きましたが、米国では薬剤師と調剤を行うファーマシー・テクニシャン(調剤技師)は別の職業で、今後AIの進化で調剤技師は減っていくと言われています。そうなった時に薬剤師の大事な役割は何なのか。徹底的に患者に寄り添う葵みどりの姿はこれからの薬剤師の大切な要素をちょっと強調しすぎて見せているのかもしれません。「患者の未来と、向き合っている。見えないところで、支えている」というアンサング・シンデレラのキャッチフレーズが、患者の人生に寄り添う薬剤師の本質を良く表していると思います。

そう、ロボットはどうなったか?最終話で分かるのですが、その後めでたく予算が認められ、ロボット導入が決まることになったのでした。

第8話より「在宅医療」について

第8話は、葵みどりが小野塚と共に在宅医療に特化した「笹の葉薬局」へ研修に行くという内容でした。薬局の代表は2人を連れて様々な患者の家を周り在宅の仕事を説明します。高齢者が多いので、単に薬を渡すということだけではなく薬の管理、副作用のチェック、食べ物など薬以外の事も面倒をみる忙しい現場を2人は経験します。そうした中で訪れた末期がん患者の家から出てきたのが、葵の病院のDI室の責任者であるベテラン薬剤師・荒神寛治(でんでん)でした。患者は荒神の妻の泰子だったのです。

荒神は妻の最期の前、結婚25周年の記念日に思い出の手品を見せたいと願いますが、最終的に苦痛緩和のための鎮静を選択します。

この回で心に響いたのは、笹の葉薬局代表の在宅医療における「最期まで看る覚悟」という信念でした。最近では在宅専門薬局も増えつつあり、チーム医療を実践したい、患者さんとより身近に接したいという薬剤師にとって選択肢の一つとなっています。ここでも重要なのは、いろいろな職種の人と円滑な関係を保ち、患者さんの治療に貢献していく薬剤師のコミュニケーション能力ということではないかと思います。

今回、研修という形でうまく病院薬剤師と薬局薬剤師を在宅の現場に一緒に登場させていました。今後、病院薬剤師とかかりつけの調剤薬局の薬剤師の「薬薬連携」はとても重要になります。前述した通り、抗がん剤の治療は外来通院治療が薬剤の進歩により非常に増加しています。こうした状況の中で、病院と調剤薬局の情報共有は不可欠となっているからです。

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多くのアンサング・シンデレラへ

最終回で成長した相原くるみは、研修で来た心春に「感謝されたいのならこの仕事は向いていないかもね」と言います。これはくるみが最初に葵に言われたことでした。アンサング・ヒーローという英語は「縁の下の力持ち」という意味だそうです。目立たなくても、医師のように表立って感謝されなくても、多くのアンサング・ヒーロー、アンサング・シンデレラが患者さんの人生を支え、活躍している。筆者はこうした薬剤師さんたちに「感謝」したいと思います。

株式会社日経HRエージェント
代表取締役社長 小田 正

2020年10月7日