雇い止め相次ぐ派遣薬剤師、直接雇用への転換は?

派遣薬剤師が契約期間満了で雇い止めになるケースが増えています。新型コロナの影響により、契約が終了する派遣薬剤師は満了後の更新がなされず、他の派遣先もないという状態が月を追うごとに増えているようです。人材紹介エージェントには正社員やパートなど直接雇用への転換を求めて派遣薬剤師からの相談が急増しています。

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受診件数は22.5%の減少

column_08_b.jpgこの背景には、周知の通り新型コロナ感染症による患者数の激減があります。院内感染の恐怖から受診が落ち込んだほか、手術の一時休止などで病院やクリニックの収入が激減しています。日本経済新聞7月2日付けの記事では、社会保険診療報酬支払基金が公表した4月分の病院・診療所の診療報酬請求件数を分析したところ、全体で受診数は前年同月比22.5%も減少していたと報告されています。3月は前年比12.7%減だったので、落ち込み幅はさらに広がっています。緊急事態宣言の解除後も患者の受診控えは続いており、最近の陽性者数の増加傾向や秋冬以降の第2波の可能性などを考えると影響は長期化するものと思われます。

大きく低下した医師・薬剤師の有効求人倍率

病院外来や診療所の患者数減はそのまま処方箋枚数の減少につながっており、調剤薬局では3~4割の減収となっているところも珍しくない状況です。特に感染を恐れる母親が子供の受診を控えるケースが多い小児科や耳鼻咽喉科、眼科は大きな減収となっています。この結果、前述の通り派遣薬剤師が相次いで雇い止めとなる現象が拡大しているわけです。また、正規雇用の新規求人も減少しており、正社員やパートへの転換もなかなか厳しい状況にあります。

column_08_c.jpg毎月、厚生労働省が発表する有効求人倍率をみても、医師・薬剤師の求人状況がタイトになってきている状況が分かります。以前、本欄のコラムでも触れましたが4月の医師・薬剤師等の有効求人倍率はついに3倍を切って2.92倍(パート含む)となりましたが、5月はこれがさらに2.65倍と前月から0.27ポイントの急落となっています。前年同月比でみると実に0.91ポイントもの低下です。2008年のリーマンショックは、サブプライムローンを中心とした金融部門からの景気悪化で医療業界はあまり大きな影響を受けませんでした。これに対し今回のコロナショックは、まさに実態経済が蒸発したことによる危機であり、他の産業同様、病院・薬局の経営にも大きな重しがのしかかってきているのです。

切り替えが必要な派遣薬剤師の考え方 

こうした状況から、各人材紹介会社では、前述の通り派遣から正規雇用への切り替えを希望する薬剤師の登録が増加しています。とはいえ、本音では派遣勤務の継続を希望する方が多く、登録の際もまず派遣の案件はないかというお問い合わせを最初に頂きます。一般の方には分かりにくいと思いますが、同じ人材業でも派遣と紹介は全く異なる事業で厚労大臣の許可も別になります。両方を兼営している大手企業もありますが、エージェントの多くは紹介事業に特化しているため、そもそも派遣のニーズには応えられないのが現状です。

また、派遣を行っている会社でも事業の整理や縮小を行っており、なかなか新たな派遣案件に出会うのは難しい状況となっています。たとえあったとしても、今後は時給が下がっていくことは否めません。

では、今後、派遣薬剤師が正社員やパートなどの直接雇用に切り替えていくにはどういった点に注意したらよいでしょうか。一般的に派遣社員は薬局からあまり良いイメージを持たれていないというのが正直な感想です。以下は薬局経営者や人事担当者に伺った派遣薬剤師の印象です。

  • 薬局としての理念や志をなかなか共有できない
  • 時給が高い。年収ベースでは正社員よりかなり高くなる
  • 派遣とはいっても必要な時に来てくれるわけではない
  • 勤務地、勤務時間、給与、科目といった条件面のみを重視する傾向

このように、なかなか厳しい意見が出てくるのが現状です。とはいえ、今後、長期的な状況を見据えて直接雇用へ転換しようと考えるならば、こうした声に率直に耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。

まず、給与の相場観ですが、日経DIキャリアの「薬剤師年収/時給Navi」によると全国の平均年収は463万円~620万円、平均時給は2031円~2403円となっています。勤務薬剤師と管理薬剤師では年収が異なりますが、その差は30~50万円程度です。全国の中で首都圏は平均年収が低い部類に入り、東京都は47都道府県中45位、神奈川県は同39位となっています。都心に近いほど低く地方へ行くほど上がっていく傾向にあります。ちなみに最も平均年収が高いのは、県内に薬科大がなく慢性的に薬剤師不足となっている島根県です。

派遣薬剤師の場合、時給3000円~3500円という方も多く、年収換算すると600~700万円となり、勤務薬剤師としては平均を大きく上回っていることが分かります。やはり派遣は特別な待遇だったことを認識する必要がありそうです。

次に、勤務地や勤務時間、休日、扱う処方箋の科目などの条件面ですが、すべてが満足できる求人があればよいのですが、現状ではまずそうした案件はないものと覚悟した方がいいでしょう。絶対妥協できないポイントは何か、そしてそれはどうしてなのかをキャリアアドバイザーと共有して仕事探しを進めるのが大事だと思います。正社員も特に首都圏では充足しつつあり、ある程度の妥協や条件の緩和が必要になってきています。

最後に、薬剤師としてこれからどうしていきたいのか、もちろん収入を得る手段であることは当然ですが、それ以外に、自分としての働き甲斐は何なのか、医療人として自らの仕事をどう捉えていったらいいのかといったことを、大学を卒業したころを振り返り、基本に戻って考えてみるのも良いのではないでしょうか。

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新型コロナの影響で遅れていましたが、7月16日(木)からフジテレビで石原さとみ主演のドラマ「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」がスタートします。おそらく薬剤師が主役となる医療ドラマは本邦初ではないでしょうか。アンサングとは、歌われない=褒められないという意味で、アンサング・ヒーローは縁の下の力持ちという意味だそうです。外科医のDoctor Xのように目立つ存在ではないけれど、患者さんのために奮闘する薬剤師を描くヒューマンドラマです。実はこの原作は、「月刊コミックゼノン」連載の漫画で、日経ドラッグインフォメーションOnlineにもコラボ掲載しているものです。是非、ご覧いただき、薬剤師の仕事とは何かということを改めて考え、ご家族や周囲の方とも話していただければ幸いです。


   

株式会社日経HRエージェント
代表取締役社長 小田 正

2020年7月6日